家族の肖像
会ってほしい人がいるのよ、と姉さんが言った。
ハーフエルフの差別をなくそう、とボクらが旅立ってから結構月日が経っていて。
そろそろイセリアに戻ろうか、と話しているときだったからちょっとだけ驚いた。
だけど、だけど――
「ゼロスだなんて聞いてないよ、姉さん!」
まさかアホ神子が来るなんて!
「あら、ジーニアス。言わなかったかしら?」
聞いてない。ただ、ほのめかすような言葉ばかりで。
「あなたのよく知っている人で」
そう、だからロイドかと思った。たしか今は二人で旅をしているはずだから、違うと分かったけれど。
「少しだけ、あなたとはそりが合わなくて」
そう言われてリーガルかとも思った。プレセアのことを必要以上に気にかける彼のことは、あまり好きではなかったから。
「でもきっとうまくやっていけると思うの――って」
確かに、聞いた。でもその言葉から赤い髪のアホ神子を思い出すことが出来なくて。
少し混乱気味のボクを放って、ゼロスがはあ、とため息をつく。
「だーかーらー、ちゃんと言っとけって言っただろリフィルさま」
姉さんはそれに心外ね、とでも言うみたいに眉をよせた。
「あら、どうせあなたも同じようなことしか言っていないのでしょう?」
途端に、ばたんっ!と物凄い勢いで玄関のドアが開けられた。……家の補修、してもらったばっかりなんだけど。
「お兄さま、これはどういうことですの――!?」
ドアの向こうには、予想通りの女の子――セレスが、いた。
「よ。早かったな、セレス」
ゼロスは笑顔で、妹に手を振ってる。……あの顔、ときどきすっごく憎らしくなるんだよね。
多分いまのセレスなら、分かってくれると思うんだけど。
「こんな紙切れ一枚で、一緒に暮らしたいだなんてどういうおつもりですの!?」
「……まんまの意味だけど?」
「わたくしに何の断りもなく、こんな重要なことを決めてしまわれるなんて!
それに……わたくしも、一緒に、ですって!?」
「お前さえよければ、だけどさ。嫌か?」
「……………………わたくしは、別に、嫌などでは」
「そっか。ありがとな、セレス」
「……はい、お兄さま」
うわ、セレス、顔真っ赤。『ジゴロ』の片鱗を見ちゃったよ……。あれで道中だいぶ懐があったかくなってたから文句を言える立場じゃないんだけど。むしろラビットシンボルとか無理矢理おしつけて歩かせてたしね……。
「……あのさ。まず訊きたかったんだけど、姉さんもゼロスもどうしてお互いにこうなろう、って思ったの?」
姉さんの好みはゼロスとは違ってた……ような気がするし、
ゼロスにしたって姉さんよりもふさわしい人がいたんじゃないだろうか。
セレスも興味をひかれたんだろう、じっと姉さんたちを見てる。
そして、ボクらが見つめる中で、ふたりはおもむろに――
「私がゼロスを選んだのはね、私以外を一番に思っていたからよ」
「リフィルさまを選んだ理由ねえ。俺が一番じゃないから、かな」
――……そう、言った。
正直耳を疑った。
だって、一番じゃないのに、好き?
ボク、数学の方程式は得意だけど。こういうのは分かんないよ……。
頭の中がぐるぐるしたままのボクを置いて、姉さんは夕飯のために台所に立った。
姉さんだけで料理したら料理と呼ぶのもおこがましい代物になるにきまってるので、当然ゼロスも一緒。
ふたりだけになってから、ためらいがちにセレスが話し掛けてきた。
「ええと……あなた」
「ジーニアスだよ。姉さんはリフィル」
「ではジーニアス」
そこで一回言葉をとめて、背筋をぴん、と伸ばす。そうしてると貴族のお嬢様なんだよね。
「わたくし、お兄さまとあなたのお姉さまの恋路を全力で阻止することにいたしますわ」
「奇遇だね、ボクも丁度そう思ってたとこだよ……!」
即席の同盟が成立して、ボクらはあれやこれや――どうすればふたりの目をさますことができるのか――話し合っていたから、姉さんたちがどんな話をしていたか、ちっとも気付いてなかったんだ。
「もーちょっと上手な言い方ってもんがあるだろうに」
「あなたも似たり寄ったりの回答しかしていなかったと思ったけれど?」
「俺さま、嘘は言ってねえし。がきんちょのこと大切にしてるリフィルさまなら、セレスのことも邪険にしたりしないだろーからさ」
「そうね。それに、セレスを大事にしているあなたなら、私がいなくなってもジーニアスを見ていてくれるでしょうね」
「そういうこと。ま、こんなことがきんちょとセレスに言ってもしょうがねえしなあ」
「……ゼロス」
「はい?」
「私、あなたのこともちゃんと好きよ?」
「……そりゃどーも」
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ゼロス×リフィル。ついでにジーニアス×セレスもありかなとかちょっとだけ思ってました