きえゆくために
「母さま……母さま!?」
ああ、あの子が泣いている。
紅く染まった雪が、わたしは助からないと告げている。
ゼロス、愛してもいないあの人との子供。
あなたは、きっと、冷たい牢獄のようなこの屋敷で、一番わたしのことを覚えていてくれるのでしょう。
でもそれは偽者のわたし。
ワイルダー家のミレーヌ。
わたしが何よりも消したいわたし。
偽者のわたしを語られるくらいなら、
いっそ全てをけしてしまえたらいいのに。
「おまえなんか、――……」
そのための言葉は簡単にすべり落ちた。
わたしの憎んだわたしは、きっと消える。
「……かあ、さま?」
ああ、あの子が泣いている。
先刻よりも静かに、もっと深いところで泣いている。
わたしのつけた傷は、思ったよりも大きくて。
けれども紅く染まった雪が、
滲んでゆらぐあの子の髪が、時間がないと告げてくる。
ごめんなさい。
もうそんなこともいえないけれど。
じゃあね。
さよなら。
――……できることなら、しあわせに。