拍手で5のお題/勝負服(アニス)

 今のわたしには武器がない。

 猫かぶりはとうの昔にやめてしまったし、
 料理の腕はみんなに追いつかれようとしている。
 一緒に旅をしていつもいつも顔をあわせていれば――飽きて、しまってもおかしくない。
 あの七歳児はことさら飽きっぽいのだし。

 わたしに必要なのは武器、ちょっとした変化だ。
 たとえば勝負服とか。


 ……口に出してみると、それは意外に悪くない考えのようにみえる。
 勝負服。
 ちょっとだけ年増女の悪あがきのようで癪だけど、まあいい。



 ピオニー陛下のくれた決戦装束は、子どもっぽいので却下。
『似合ってる』とは言われたけれど、
 いつもの教団服の次くらいに見慣れたものになってしまったので、勝負服にはならないだろう。

 次、同じくピオニー陛下のくれた水着。
 ……悩殺できるような色気は(まだ)ない。却下。

 デビっ子。
 ……さんっざん『悪の親玉』呼ばわりされたんだけどコレ。
 今でもコレを着ると『親玉が来るぞー』って件の七歳児と元使用人がうるさい。勿論黙らせるけれど。
 ……というわけで、やっぱり却下。


 とりあえず、今持ってる服じゃあ『いつも』の延長線上でしかない。
 新しい服買うかなあ。
 ……そんな風に、考えていたある日のことだった。



「お前ぇ、どれが一番大事ぃ?」
 わたしら『どれ』扱いかよ、ってな質問を七歳児に投げかけたのはオールドラント童話の妖精、ありじごくにん。
 ええ、とかうぅ、とか間抜けな声をあげてから――ぽつりと、七歳児は名前を告げた。
「……アニス、かな」

 目の前が真っ暗になった。
 ……や、比喩じゃなくて、ホントに。
 ゆらあ、と黒一色の景色がゆれて
 わたしは、見たこともない場所に立っていた。

 これひょっとして、アリ地獄の中?
 うわ、あの中ってこんなんだったの?
 砂まみれになったはずのアップルグミやらシミターやら、
 他にも渡した覚えのないアイテムや武器防具がごろごろしてる。
 ……拾ったかもらったかしたんだろうな。

 何か、向こうのほうにクローゼットみたいなのも見えるよ。
 ……何かあるかな、勝負服。
 かぱ、とクローゼットを開けた瞬間、足元が揺らいだ。
 液状化した地殻みたいな、とびきりでっかいアリ地獄みたいな――
(……って、アリ地獄に決まってんじゃん!だってここはありじごくにんの――)
 慌ててクローゼットから、中身も見ずに掴み取る。
 そして、目の前の風景がまたゆらいで――



「アニス!大丈夫か!?」
 七歳児が心配そうにばたばたと駆け寄ってくるのを、笑いながら見守って。
 わたしのことで動揺したり、おたおたしてたりするのを見るのが楽しいのは――よっぽど重症なのかもしれない、なんて考えた。

「良かった〜、このままいなくなったらどうしようかと思った」
「へぇ。ルークって実は結構わたしのこと好き?」
「…………多分」
「素直じゃないね〜」
「ひとのこと言えないだろ!」

「ところで、手に持ってるの何だ?」
「……勝負服候補、その1」
「は?」
「じゃなくて――乙女の秘密でぇす☆」



 その日の夕方、あまりの期待はずれに勝負服候補だった『ねこにんの着ぐるみ』は宿の壁に叩きつけられていたのだけれど。

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お題はくじらのゆりかごからお借りしました。