cry for the moon

 欲しいものがあるんです。

 手に入らないとわかるのに、
 それでもあきらめきれないんです。




 眠れない夜に、空を見上げていた。
 背後から、涼やかな声がした。

「月でも見ていたんですか?」
「――違うよ」

 そう返したら、声の主――紅い目の大佐は肩をすくめてみせた。

「おや。私はてっきり、月を欲しがっているのかと思いましたよ」
「……そんなわけないだろ」

 子どもじゃあるまいし。
 手が届くはずもない月を欲しがって、なんか――

「――……」

 否定する言葉が、喉に引っ掛かる。
 手が届かないものを欲しがっているのは、本当のことなのに。



「……なあ。手に入らないものを欲しがるのは、馬鹿なのかな」

「馬鹿じゃない、とは、言えないでしょうね」

「じゃあ――」


 俺、も?


「……ですが」




「それでもその内のいくらかは、手に入るのだと思いますよ。
 そうやって、アルビオールは空を飛んだわけですからね」


 ……きっと、自分の欲しいものはやっぱり手に入らないけれど。
 気づいた時には、遅すぎたのだと分かっていたけれど。






 あんまり優しい声だから、少し夢をみてもいい気がした。

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